大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和50年(行コ)4号 判決 1977年10月20日

控訴人

中迫百合子

右訴訟代理人弁護士

岡田譲

被控訴人

愛知県公安委員会

右代表者委員長

本多静雄

右訴訟代理人弁護士

佐治良三

右訴訟復代理人弁護士

来間卓

右指定代理人

安藤正男

外六名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は(1)「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四八年一月二〇日付で控訴人に対してなしたカーホテル百合香についてモーテル営業の廃止を命じた処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び(2)予備的に「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四八年一一月二〇日付で控訴人に対してカーホテル百合香についてモーテル営業の廃止を命じた処分を取り消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は左に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

(控訴人)

一、憲法二二条一項違反について

(一)  控訴人は、その経営するモーテル営業について「個人の自由な活動からもたらされる諸種の弊害が社会公共の安全と秩序の見地から看過することができない場合に、消極的に、右弊害を除去又は緩和するために必要かつ合理的な規制である限り、その法的規制が許される」と解することは、原則的には異議がない。要は、その具体的解釈の問題に帰着する。

(二)  第一に、右公共の安全及び秩序の維持とは警察的な安全、秩序ではなく、真に社会そのものが必要としている安全であり、秩序でなければならない。即ち、現存する社会の風俗的レベルにおいて、モーテル営業が他の風俗営業に比して風俗的に悪であり、社会にモーテル営業の禁止を求めるコンセンサスが存在するかどうかを充分に考慮すべきである。

この見地からすると、売春問題、トルコ風呂、観光ショウ、ポルノ映画又はこれに準ずる映画の上映、俗悪週刊誌、その他社会に存在する風俗は昔の醇風美俗からは極めて遠いところにあり、モーテル営業の存在がこれらの現象に比して、特に悪質であるとか、特に目立つとかいうことはなく、又社会には、これら一般の風俗を是正し、社会道徳を高めようとする気運は全く見られないのであつて、むしろ新聞紙上等には、表現の自由行動の自由、プライバシー等の見地から、警察行政が介入するのを排除しようとする風潮が強い。

このことは、モーテル営業の禁止の後、風俗の向上について、さしたる発言や立法等がなされていないことからも明らかであり、又現存する社会の風俗にあつては、性の解放、個人生活の自由を求める風潮から、婚姻外の性交渉についても寛大なのが実情である。

従つて社会一般としては、モーテル営業を禁止しなければならないとか、禁止すれば社会環境が良くなるなどと考える人は少ないと思われる。かくして、公共の福祉という場合、その公共たる概念は真に現存する社会を背景にしたものでなければならない。

(三)  第二に「消極的で必要かつ合理的規制」をする場合、既存の営業者の地位は能うかぎり保護されるべきところ、個室トルコの制限規制はすこぶる消極的であつたから、モーテル営業においては、その規制はさらに消極的であるべきである。

(四)  第三に、改正法四条の六、一項の「清浄な風俗環境が害されることを防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定める地域」は、絶対に恣意的に指定を許すものではなく、客観的に「清浄な風俗環境を維持する必要がある地域」のみ地域指定ができるとの趣旨であり、右「清浄な風俗環境」とは、「通常の風俗環境より清浄な」と解すべきであるから、学校、公園、その他何人が考えても特に風俗環境を清浄に保つ必要がある場所のみ個別的に地域指定ができるものというべきである。

(五)  原判決は、改正法が効果的で以後地域住民の反対の声もなく、モーテル内の犯罪も減少したという。しかし、現実においては、モーテルは旧に増して群立しており、風俗環境はその意味では決して良くなつていない。住民の反対の声がなくなつたのは、それが本来一過性の意見であり、単なる流行もしくは選挙目あての声であつて、社会の本質から発せられた声でなかつたからに外ならない。

又モーテル内の犯罪が減少したとの原判決の認定判断は、長期且つ種々の犯罪相に対比しない限り、軽々には断定できないのにもかかわらず安易になされた判断といわなければならない。そして原判決認定にかかる一般の旅館、ホテル一軒当りに対するモーテル一軒当りの犯罪発生比についても一軒一軒の規模、個室数、利用客の回転率等は全く無視されており相当とはいえない。

二、憲法二九条三項違反について

モーテル営業は、従来長期間にわたつて適法な営業形態として是認されてきたこと及び風俗上の反社会性が軽微であることを勘案すると営業形態の変更に伴う経費をすべて本人負担とすることは余りにも切り捨て御免的な考えであり、財産権に対する違法な侵害として許されない。

三、本条例の違憲、違法について

(一)  原判決は、本条例のなしている一般的概括的な規制についてその正当性を認めるが、愛知県下における全モーテル営業が制限地域に含まれるような規制は到底「消極的且つ合理的」なものとは言い難い。

(二)  被控訴人が行つている規制の根本理念は、「通常の風俗環境が害されることを防止するための規制」であり、「清浄な風俗環境が害されることを防止するための規制」ではない。後者の理念による場合、その規制によつて得られる効果は、清浄な風俗環境の維持なのであるから、通常より高度な風俗が維持さるべき場所にのみ地域制限が行われるべきである。その場合、学校、公園、住宅密集地その他特定の場所のみ地域制限が可能であると信ずる。

控訴人の本件モーテル営業の場所は、特に清浄な風俗環境を維持しなければならない特定の場所ではなく、通常の場所であるから、本件モーテル営業の所在地を規制範囲内に含む本件条例は、明らかに違憲、違法である。

四、被控訴人は、右百合香の中庭に車庫を設ける等して法規制を充足させる途が存するというが、仮に美観、費用、敷地面積(モーテル営業の場合、車一台分として最低約二〇平方メートルが必要である)等の問題を抜きにしても愛知県建築基準条例三九条一号に牴触し、法的に不可能であつた。

(被控訴人)

一、控訴人の憲法二二条一項違反の主張について

(一)  改正法四条の六が目的としたところは、いわゆるモーテル営業のうち、総理府令第五三号で定める構造(いわゆるワンルーム、ワンガレージ型式)を有するものが、その高度の密室性ないし秘匿性の故に不健全な需要を喚起し、県下の殆んどの幹線道路沿線、近郊住宅地、健全行楽地に急激に増加し、その結果、近隣の風俗環境を害し、犯罪を多発させる状況に鑑み、これを規制することにある。

ところで控訴人は、モーテル営業をトルコ風呂、観光シヨウ、ポルノ映画等と対比して云々するが、モーテル営業規制には犯罪の防止という目的があることを看過すべきではなく、現に改正法施行後、いわゆるモーテル営業の新規開業に歯止め効果が生じ、モーテル営業施設内での犯罪発生件数が著しく減少しているのである。

かかる状況からすれば、改正法によるモーテル営業の規制は社会公共の安全と秩序維持の見地から誠に時宜を得た適切妥当な立法であつたものというべきで、この規制と控訴人主張の表現の自由、行動の自由とは何のかかわりもない。

(二)  控訴人は、改正法によるモーテル営業の制限規制を個室トルコ風呂の制限規制に対比して厳格にすぎる旨主張するが、トルコ風呂とモーテル営業とは事案を異にし、又個室トルコ風呂に対する規制がモーテル営業に対するそれより消極的であつたとは一概にいえない。

(三)  モーテル営業を禁止すべき地域の指定は恣意的になされるべきものではないことは控訴人主張のとおりであるが、さればといつて、同控訴人のいうように「清浄な風俗環境」を「通常の風俗環境よりも清浄な意味」に解すべき根拠はどこにもない。営業活動に対する規制は消極的でなければならないとする命題も改正法の意図する規制の目的、必要性との関連で考えなければならないのである。さもないと、モーテル営業を規制することによつて達成しようとする公共の福祉の要請に答えられない結果となるからである。

(四)  改正法施行後もモーテル営業が以前に増して群立しているという控訴人の主張は、全く誇張であり、又モーテル営業施設内での犯罪発生件数も右改正法施行後著しく減少しているのである。控訴人主張のように犯罪発生件数の減少如何は長期的観測が必要であるとしても、今後発生件数が増加に転じる要素は見出せないのであつて、恐らく減少傾向はさらに続くものと思われる。

二、控訴人の憲法二九条三項違反の主張について

これに対する被控訴人の主張は、原判決事実摘示(原判決九枚目裏七行目から同一一枚目表六行目まで)のとおりであるが、さらに付言すれば、控訴人はモーテル営業が全面禁止とされなかつた論拠として、風俗上の反社会性が軽微であるからとしているが、モーテル営業をいかなる限度で規制すべきかは、立法府の政策的技術的な裁量に委ねられているものであるから、立法府が右裁量権を逸脱し、当該規制措置が著しく不合理であることが明白な場合に限つて違憲として、その効力が否定されるべきであつて、必らずしも反社会性の程度との必然性はない。

三、控訴人の本条例の違憲、違法の主張について

これに対する被控訴人の主張は原判決事実摘示(原判決一一枚目表八行目から同一三枚目表五行目まで)のとおりであるが、控訴人の経営する「カーホテル百合香」の近隣の状況について付言すれば、右百合香は、国道二五九号線の起点の豊橋市西八町交差点から約五キロメートル南進した同市松井町地内の赤根坂の中途から市道松井町駒形町一〇二号線を西方に約一六〇メートル入つた南側道路沿いに位置している。

右百合香の東側には、一般住家が数軒接続して建つており、北側は市道を隔てて約一五メートル位の高さの高台となつており、高台の上には約一〇〇平方メートル位の神明社境内の広場があり、北隅に社殿建物がある。神明社の東北部から国道二五九号線をまたいで戸数六〇戸位の松井町部落がある。西側は空地となつているが、約一八五メートル西方の地点から西に城山団地(鉄筋コンクリート四階建アパート四棟鉄筋コンクリート二階建アパート一八棟、一般分譲住宅六六棟計二九四世帯一、二〇〇人が居住)があり、さらに右百合香の西方約六〇〇メートルの地点に磯辺小学校、磯辺保育園がある。南側は田園が広がり、国道二五九号線から同ホテルの南側面のブロツク塀の白地に「カーホテル百合香」と朱書された看板が鮮明に望見できる。

このように、百合香は、近隣の清浄な風俗環境を阻害し、青少年の保護育成上も好ましい結果を生じていないことは明らかであるから、控訴人主張の基準に照らしても、同人のモーテル営業が規制されることは止むを得ないところである。

四、なお、控訴人の経営する右百合香が法規制を充足するには、個室の出入口を別に設けるとか、従前の車庫の使用を取り止めて中庭に車庫を設ける(市街化調整区域においても、右車庫の建築が可能であることは都市計画法二九条一一号及び同法施行令二二条二号によつて明らかである。)等、屋根の取りはずし以外の方法によつても、法規制を充足させる途が存するのである。

(証拠関係)<省略>

理由

一当審における証拠調の結果を勘案してなした当裁判所の判断によるも、控訴人の本訴請求はいずれも棄却すべきものと考える。その理由は、左の点を付加するほか、原判決の説示するところと同じであるから、原判決理由記載をここに引用する。

二控訴人の当審における主張について

(一)  憲法二二条一項違反並びに本条例の違憲、違法の主張について。

(1)  憲法二二条一項は、何人も公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有することを保障しているのであり、従つて営業の自由が保障されるのは、公共の福祉に反しない限りにおいてであるから、公共の福祉に反するときは、法律又は条例をもつて、これを規制することができることは明らかである。

改正法四条の六は、原判決認定のとおり性の解放という風潮を反映して特に昭和四三年頃から全国各地の住宅近郊地域等において急増し、今後もなお増えるものと予測されたモーテル営業の大半が個室に自動車の車庫が個々に接続するいわゆるワンルーム、ワンガレージ型式の密室性ないし秘匿性のある施設を有し、これを異性同伴客に利用させる特殊な業態であることから、不健全な需要を喚起し、一般の旅館における場合と比較して種々の弊害特に犯罪非行が頻発して、住宅近郊地域、健全行楽地域等における清浄な風俗環境が著しくそこなわれ、青少年の健全な育成を害することが甚しいので、これら弊害を除去するためには、少なくともモーテル特有の右密室性ないし秘匿性のある構造を有するモーテルに限定して規制すれば、当該地域の清浄な風俗環境が害されることもないし、結果的にはモーテル特有の性犯罪その他の犯罪を防止しうるものとして制定を見るに至つたものである。

ところで、控訴人は種々理由を付して、社会一般としては、モーテル営業を禁止しなければならないとか、禁止すれば社会環境が良くなることなどと考える人は少ないと思われるというが、<証拠>を総合すれば、昭和四六、七年頃以降地域住民、地域社会から強いモーテル反対運動が全国各地に起こり、愛知県下においてもその例に洩れず地域住民をはじめとして、同県下各市町村から同県その他関係官庁に対してモーテル建設規制についての要望陳情がなされ、殊に昭和四六年六月から同四七年一〇月に至る間、右県下各市町村においてモーテル建設反対の決議ないしはモーテルを追放する規制条例を制定するに至つたものは、四一市町に及んだことが認められ、これらの事実関係に照らせば、現存する社会の風俗的レベルが一般的に緩やかになつたことは否めないところではあるが、かかる現象に対して地域住民や各市町村においてモーテル営業の高度の秘匿性のために不健全な需要を惹起し、その結果、近隣の風俗環境を害し、犯罪を多発させる状況にあるため、これを防止して清浄な風俗環境を維持しようとする住民の健全な風俗意識が存在することは明らかであつて、その故にこそ、右の如くモーテル反対の世論が強くなり、改正法が提案されるに至つたものであるから、該改正法は、まさに控訴人の主張する社会そのものが必要としている社会秩序であり、国民の健全な風俗意識に裏付けられた妥当な規制であつて、控訴人の主張する如き、表現の自由、行動の自由等を侵害するものではないというべきである。

又控訴人は、モーテル営業は売春問題、トルコ風呂、観光シヨウ、ポルノ映画、俗悪週刊誌等に比して特に悪質で、あるとか、特に目立つとかいうことはなく、社会もこれら一般の風俗を是正し、社会道徳を高めようとする気運は全く見られないというが、右売春問題等の各種事案については、売春防止法、風俗営業等取締法、各都道府県の青少年保護育成条例(愛知県には愛知県青少年保護育成条例が昭和三六年三月二八日に公布され、同年六月一日から施行)等が制定されていて、右事案に対処しているとともに、いわゆる有害興行、有害図書については右青少年保護条例のほかに一般的規定として刑法があつて、右有害興行や有害図書の規制を図つているのであるから、社会には、右不健全な風俗を是正し、社会道徳を高めようとする気運は全く見られないとする控訴人の主張は失当であり、又モーテル営業を規制する主たる目的の一つは、右の他の業種と異なつて、モーテル特有の性犯罪その他の犯罪を防止することにあるのであるから、右他業種とは自ら規制の仕方も相違してくるのは当然であり、控訴人が主張するようにモーテル営業は右他業種と対比して特に悪質でないとか、特に目立たないとかを論ずることは理由のないことである。

<証拠>によれば、改正法施行後、いわゆるモーテル営業の新規開業に歯止め効果が生じ、又モーテル営業施設内での犯罪発生件数が著しく減少していることが認められる点に照らせば、改正法は社会公共の安全と健全な秩序維持に裨益しているものとして時宜を得た適切妥当な立法措置であつたものというべく、犯罪の発生件数の減少についても控訴人の主張するように長期的に犯罪相を観測する必要があるとしても、右事実関係によれば、今後犯罪発生件数が増加に転ずる要因は見出せないのであつて、おそらく右件数の減少傾向はさらに続くものと予想されるのであるから、控訴人の一(二)の主張は理由がない。

(2)  控訴人は改正法による規制を個室トルコの規制と対比して厳格にすぎる旨主張するが、モーテル営業の場合と個室トルコ営業の場合とは同一に論ずることができないことは原判決説示(原判決二一枚目裏三行目から、同二二枚目表末行まで)のとおりであるのみならず、改正法四条の六はその構造上密室性ないし秘匿性の高い、いわゆるワンルーム、ワンガレージ型式の構造設備を有するモーテルだけに限定して、しかも各都道府県の条例が定める禁止区域内において一年の猶予期間後はその営業を規制することができることとしたものであつて、この程度の規制は前叙各弊害を除去するためやむを得ない極めて消極的且つ合理的な規制であるというべきであるから、控訴人の一(三)の主張も理由がない。

(3)  控訴人の主張一(四)、同三について

改正法四条の六、一項はいわゆるワンルーム、ワンガレージ型式モーテル営業が営まれることにより清浄な風俗環境が害されるのを防止する必要のある地域について規制することとし、その地域指定を都道府県の条例に委ねている。そこで愛知県は右委任の趣旨にもとづき、昭和四七年一〇月一三日本条例を公布施行し、同条例三一条の三において原判決別表(一)記載のとおり控訴人営業地の豊橋市を含む各地域を指定したのであり、該指定によれば、控訴人主張の学校、公園、住宅密集地等にのみ限定されてはいないが、右規制の内容と本条例作成の際の規制地域指定の具体的基準並びに地域指定の方法等は控訴人の主張する如く恣意的になされたものではなく十分の合理性と必要性を具有するものと認められるのであつて、その理由とするところは原判決の説示(原判決二二枚裏二行目から同二八枚目裏一〇行目まで)と同じであるから、これを引用し、前記のようなワンルーム、ワンガレージ型式のモーテルの実態やその利用者が広範囲に行動しうる自動車の運転者やその同伴者であることに鑑みれば前記のような地域指定も十分な合理性と必要性があるものと考えられる旨付言する。

なお、控訴人は、前記のように「清浄な風俗環境」とは、「通常の風俗環境より清浄な環境」と解すべきだというが、そのように解釈すべき根拠はなく、<証拠>によれば、要は、改正法四条の六の趣旨は、善良の風俗を維持するために、都道府県の条例で定める地域において、いわゆるモーテル営業を禁止するとともに、これに違反する者に対して都道府県公安委員会が当該営業の廃止を命ずることができるようにしたものであつて、控訴人の右主張のように地域指定をその主張の如き場所に限定しなければならないものと解すべきいわれはない。

因みに<証拠>によれば、控訴人経営のモーテル百合香は豊橋鳥羽間の国道二五九号線から直線距離にして西方約一六〇メートルのところに所在し、その東側には一般住家が数軒接続して建つており、北側約二〇メートルのところには神明社があり、神明社の東北部から右国道二五九号線をまたいで戸数数十戸の部落がある。

又百合香の西方約一八五メートルのところには城山団地(一五〇〇名位が居住)があり、さらに百合香の西方約五八〇メートルの地点に磯部小学校、同小学校に接して磯部保育園がある。そして南側は田園が広がり、国道二五九号線から右百合香の南側面のブロツク塀の白地に「カーホテル百合香」と朱書された看板書が鮮明に望見できる状況にある。

このように右百合香の近辺には、神社、一般住宅、小学校、保育園等が存在し、控訴人が主張するような基準に照らしてもモーテル営業が規制されるべき地域に該当するものというべく、該規制地域に指定されても止むを得ないものと考える。

従つて、控訴人の本件地域指定は違法であるとの主張は全く理由がないものである。

(二)  控訴人の憲法二九条三項違反並びに同四の主張について

控訴人の憲法二九条三項の主張について、当裁判所の認定判断とするところは、原判決(原判決二〇枚目表末行から同二二枚目表末行まで)のとおりであつて、本件規制は、前叙の弊害を除去し、公共の福祉を保持するためにモーテル営業者が等しく受忍しなければならない責務であり、右規制が平等負担の原則に反しているものとはいえないから、右制限を課するにあたり、損失補償を要しないものと解する。

次に、控訴人は、同人経営のモーテル百合香について、改正法の規制に適合することは法的に不可能であるという。

<証拠>中には、右百合香の所在地は市街化調整区域内であるために、車庫の屋根を取りはずせば、右規制に適合するにしても将来、百合香の建物を建て替える場合、既存建物の建築面積の一、二倍以下でなければならないとの不利益を受ける旨の供述部分がある。しかし、市街化調整区域内においても、都市計画法二九条一一号及び同法施行令二二条二号によれば、建築面積の制限を受けることなく建て替えが可能であるから、控訴人主張の如き不利益を受けるいわれはない。

仮に、右百合香の所在地が市街化区域に編入され、かつ、旅館の新築が不可能となるような建築基準法上の用途指定(同法別表第二によば、第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、工業地域及び工業専用地域では、旅館の新築は許されていない。)があつた場合には、建築基準法五二条及び五三条並びに同法施行令一三七条の四、二号によつて、控訴人が既存建て替えをなすときには、その用途地域ごとに定められた建ぺい率及び容積率の範囲内で改築後の建物の床面積の合計の一、二倍未満でなければならないように定められているので、この場合には車庫の屋根を取りはずすのみならば、不利益を受けることもありえようが、車庫の屋根を取りはずす以外の方法によつてもモーテルの個室の出入口を別に設けるとか、又は従前の車庫の使用を取り止めて中庭に車庫を設置することは、右説示したとおり、都市計画法二九条一一号及び同法施行令二二条二号によつて可能である。

もつとも、控訴人は右のように中庭に車庫を新設するとすれば、愛知県建築基準条例三九条一号に牴触し、法的に不可能であるという。

前記百合香の車庫の合計面積が五〇平方メートル以上であり、その敷地の出入口が幅六メートル未満の道路に面していることは、被控訴人のあえて争わないところであるから、百合香の施設の現状がすでに右県条例三九条一号に違反していることになるが、右既設の車庫に代え中庭に新設すべき車庫に屋根を設けないで、駐車場方式をとれば、かかる駐車場は、建築基準法にいう車庫ではないから、該駐車場の新設が右県条例に違反するおそれはないし、又<証拠>によれば、仮に、新設されるべき車庫に屋根と柱もしくは壁があり、右県条例三九条一号に牴触することになるとしても、愛知県においては、今次の前記法改正に伴い、業者がその施設を総理府令(昭和四七年七月五日総理府令五三号)に該当しないように改造する場合には、改造後の施設が右総理府令に該当しない限り、臨時の措置として、該施設に右県条例三九条を適用しないこととした。従つて、控訴人が、その中庭に車庫を新設することとして、これに伴う建築確認申請を所轄の豊橋市建築主事に提出しておれば当然その確認が得られた筈である。

<証拠>は、訴外株式会社杉浦建築事務所が控訴人から依頼のあつた車庫の設計を断つたことを証明したまでのことであつて、控訴人が現実に確認申請をなしたにもかかわらず、これが受理されなかつたことを証明したものではないから、右<証拠>の存在は、当裁判所の前叙認定判断に消長を及ぼすものではない。

よつて、控訴人の右百合香の施設を法規制に適合させることは法的に不可能であるとの主張は採用することができないものといわなければならない。

三以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(丸山武夫 林倫正 上本公康)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例